5.しめくくり

コムギは世界中の人びとに食糧を提供する大切な作物ですから、多くの研究者が関心を 持ち、様々な研究がなされてきました。この「コムギの話」では主として遺伝学や育種 学の分野のトピックスだけを取り上げました。その理由は、KOMUGI NETWOEK の構築に携わったのがコムギの遺伝学・育種学の研究者であることによります。コムギについ てはその栽培から収穫物の利用まで様々な分野で精力的な研究がなされていることをつ け加えておきたいと思います。

さて、遺伝や育種の分野で私たち日本人の研究者も大きな成果をあげてきたことは、こ こまで書いたことで理解していただけたことと思います。詳しくは触れませんでしたが、 これらのすばらしい研究成果が上げられた背景には貴重な実験系統を有効に使うことが できたという事実があります。たとえば、パンコムギのゲノム分析を遂行するためには、 一粒系コムギ、二粒系コムギをはじめ野生の近縁属、エギロ−プス属の植物が不可欠で す。また、ゲノム説から同祖性の概念へと発展する過程ではパンコムギの種々の異数体 が果たした役割は計りしることができないほど大きなものでした。このような異数体に しても、また細胞質置換系統にしても、コムギの研究者の地道な努力によって人為的に 作られたものです。

私たちは先人が収集した多数の野生種や在来種、実験的に作られた異数体系統、細胞質 置換系統、突然変異系統などを維持し、次代へ伝えなければなりません。そして、これ らの保存系統が有効に利用され、科学の発展の役立つことを期待しています。このこと を達成するためにKOMUGI NETWORKを構築しました。私たちは有用な実験系統の収集 や育成を今後続け、中味の充実に一層の努力をするつもりです。

参考文献

第47回日本統計年鑑 平成10年、総理府統計局

朝日年鑑 1997

小麦粉の話 財団法人製粉振興会、 平成 7年4月

コムギ博士の研究(教材植物マニュアル) 横浜市こども植物園、1995年3月

小麦粉ハンドブック 財団法人製粉振興会

館岡亜緒 イネ科植物の解説 明分堂、昭和34年

阪本 寧男 ムギの民族植物誌(フィールド調査から) 学会出版社 1996年12月

Koichiro Tsunewaki (Ed.) Genetic diversity of the cytoplasm in Triticum and Aegilops . JSPS,1980.


執筆

西川浩三(代表)、辻本 寿、笹隈哲夫、遠藤 隆

Web制作: 国立遺伝学研究所